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モロッコのユダヤ人の結婚式:ドラクロアの世界




ドラクロアは、モロッコ滞在中の1832年2月21日に、タンジールの友人の紹介で、ユダヤ人の結婚式に立ち会うことができた。その折に、結婚式の様子を日記に記録し、また会場の様子や花嫁の姿を水彩画に描いた。それらをもとにして描いたのが「モロッコのユダヤ人の結婚式(Noce juive dans le maroc)」である。1837年ごろから41年にかけて製作され、1841年のサロンに出展された。

展覧会のカタログにドラクロア自身が解説を載せている。「ムーア人とユダヤ人は一緒に混ざっている。花嫁は奥の部屋に留められたままであるが、一方、他の部屋で人々は楽しんでいる。家柄のよいムーアの人々は楽士たちに金を与え、楽士たちは昼夜果てることなく楽器をひき、歌を歌う。女たちは踊りにいそしみ、かわるがわる、拍手に合わせて踊る」

絵の構図は、だいたい上の説明の通りである。花嫁の姿は見えず、結婚式の参加者たちが部屋の中に陣取って、芸人たちの踊りや演奏を楽しんでいる。画面右手の、左手を差し出して、金を与えているのは、この家の主人なのだろう。

画面中央に広い空間を描き、人物は下部に集中しているので、構図上アンバランスなところがあるように見える。そのアンバランスを、色彩の配置でカバーしている。中央部を思い切り明るくし、周囲を暗くしているために、見るものの視線は画面中央から周辺へと導かれるようになっている。それが独特の運動感をかもし出す。

(1837-1841 カンバスに油彩 105かける140.5cm パリ、ルーヴル美術館)




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