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死の床のマルクス・アウレリウス:ドラクロアの世界




ローマ皇帝マルクス・アウレリウスは、理想的な哲人君主として有名だ。政治的に成功を収めたほか、学問にも造詣が深かった。ストア哲学に心酔し、「自省録」といった著作を残している。度重なる戦争で勝利し、自分自身ボヘミアの戦場に赴く途中に、滞在地のウィンドボナで死んだ。遺体は火葬され、遺骨がローマに送られたという。

「死の床のマルクス・アウレリウス(Marc Aurèle mourant)」と題したこの絵は、死の床についたマルクス・アウレリウスを描いている。死の床に横たわったマルクス・アウレリウスの周囲に、ストア派の仲間たちが取り巻いている。皇帝は自分の後継者たる息子のコンモドウスを彼らに託そうとしているが、息子はうわのそらといった表情を呈し、ストア派の賢人たちも息子に関心を示していない。

皇帝が左手を絡みつけている青年がコンモドウス。この青年は皇帝になると、ローマ史上でも名高い暴君になった。絵の表情からは、かれの暴君になる素質が垣間見えている。

この作品は1845年のサロンに出展され、大きな評判となった。構図はダヴィッドの「ソクラテスの死」と比較され、当世の傑作と評価されたものだ。全体として瞑想的で静かな雰囲気が伝わってくるが、暖色を有効に使うことで、単調さを遁れている。

(1844年 カンバスに油彩 262×337cm リヨン市立美術館)




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