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大蛇ピュトンに打ち勝つアポロン:ドラクロアの世界




「大蛇ピュトンに打ち勝つアポロン(Apollon vainqueur du serpent Phyton)」と題したこの作品は、ルーヴル宮殿の天井画として制作された。アポロンをモチーフにしたのは、アポロンの間を飾るものだったからだ。ドラクロアはこのモチーフを、オヴィディウスの「メタモルフォーズ」をもとにイメージ化した。

パルナッソスの麓にあるデルポイに神託所を作ることになったが、そこには巨大な雌蛇ピュトンが陣取って、予言の能力を発揮していた。そこでアポロンが神々を代表してピュトンを退治したというような物語を、ドラクロアなりにイメージ化したものだ。

アポロンは太陽神であり、その太陽神が闇の世界の怪物を退治するというのは、光と闇との戦い、文明による野蛮の退治というよくあるパターンを図式化したものだ。

画面中央やや上に四頭馬車に乗ったアポロンが闇の世界へ弓矢を放っている。アポロンの背後には妹のアルテミスが控え、矢筒を差し出している。またアポロンの周囲には、ミネルヴァやヘラクレスなどが、怪物を相手に戦っている。画面下は、暗く塗られ、大蛇がもがく姿が描かれる。画面最上部に布を振る様子が描かれているが、これは光の勝利を宣言する神々の使者イリスだとされる。

この作品の制作に当たって、ドラクロアはアントウェルペンに赴き、ルーベンスの作品を研究したという。

(1851年頃 カンバスに油彩 800×750cm パリ、ルーヴル美術館)




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