壺齋散人の美術批評
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ラウル・デュフィの世界 壺齋散人の美術批評


ラウル・デュフィ(Raoul Dufy 1877-1953)は、フォーヴィズムに分類されることが多い。たしかに一時期マティスらのフォーヴィズム運動に関心を示したことはあるが、それだけに傾倒していたわけではなく、キュビズムやドイツ表現主義の画風にも大きな影響を受けている。デュフィの画風は、さまざまな影響を経て確立されたものであって、ある特定の運動に結びつくといったものではない。

デュフィが長い試行錯誤の末に独自の画風を確立したのは1920年代に入ってからのことで、かれは画家としては、すでに若くはなかった。そのデュフィ独自の画風は、思い切り単純なフォルムと、あふれるような光の感覚だった。デュフィは、マティスのように色彩を重視するとは言われたくなかった、かれが重視したのは光だったのである。それは、デュフィの絵を見た人が誰でも感じることだと思う。マティスの絵が重厚さのようなものを感じさせるのに対して、デュフィの絵は軽快そのものである。すがすがしさといってもよい。

ラウル・デュフィは天才肌の画家ではなく、たゆまぬ努力によって自己の画風を開拓していくタイプの画家だった。本格的な美術教育を受けたのは23歳の時であった。最初のころは、暗い画面の地味な絵ばかり描いていた。そこには光が欠けていた。後年のデュフィをそこに感じることはない。かれが光を意識するようになるのは、印象派のグループに接近したときからである。光を意識することで、彼の画面は明るくなった。

デュフィはついでフォーヴィズムの影響を受けるようになった。1905年のサロン・ドートンヌ展を見たのがそのきっかけだった。この展覧会はフォーヴィズムの旗あげのようなもので、マティスらの強烈な色彩の絵が展示されていた。デュフィもそれに刺激されるかたちでフォーヴィズム風の絵を描いたが、ほかのフォーヴィストに比べれば、どこか半端な印象をぬぐえない。

フォーヴィズムの影響は長続きせず、キュビズムに関心を示すようになる。それには友人の画家ブラックの影響があった。かれはブラックと一緒にレスタックに滞在し、キュビズムを感じさせる風景画を描いた。ブラックとデュフィが追及したキュビズムは、セザンヌの影響が大きい。セザンヌは対象をそのままに捉えるのではなく、頭の中で再構成したうえで、画面に定着するという方法をとっていた。その方法をかれらも採用したのである。

そのままキュビズムを追求したら、デュフィの画風はかなり違ったものになった可能性がある。だがデュフィはまた別の傾向から影響を受けるようになる。1909年に、友人のフリエスとミュンヘンに行き、そこでドイツ表現主義の運動に接した。ドイツの表現主義は、画題に精神主義を感じさせる一方で、派手な色彩感覚を感じさせた。デュフィは、精神主義に傾くことはなかったが、色彩感覚には大いに関心を示した。かれの色彩感覚はフォーヴィズムによって養われたといえるから、ドイツ表現主義を通じて、その色彩感覚を取り戻したといってよいだろう。

その後デュフィは、版画や布地デザインなど商業的な活動に従事した。1911年にはゲルマ街にアトリエをもとめ、以後生涯そこで制作した。かれの画家としての転機は1921年である。この年かれは「ヴァンスの噴水」という作品を描いたが、これは遠近法を完全に無視した平面的な図柄であった。以後デュフィの作品は、遠近法にこだわらず、またフォルムも自在に表現するといった無手勝流なものに変わっていった。「ヴァンスの噴水」にはまだ豊かな色彩と光のイメージは感じられないが、やがてそういうものを感じさせるように進化していく。デュフィ独特の画風は、その進化の結果生まれたものである。

デュフィは音楽にも大いに関心をもった。晩年には音楽にかかわりのあるモチーフを多数手がけている。バッハ、ドビュッシー、モーツァルトといった音楽家たちへのオマージュを作品にしたほか、演奏会の様子を描いたりもしている。デュフィは非常に多作な画家で、75年の生涯におびただしい数の作品を残した。


昼食の後 ラウル・デュフィの世界

トルーヴィルのポスター ラウル・デュフィの世界

旗で飾られた通り ラウル・デュフィの世界

エスタックの樹木 ラウル・デュフィのキュビズム風の作品

大浴女 ラウル・デュフィの表現主義的作品

バラ色の服を着た夫人 ラウル・デュフィの世界

青い騎士 ラウル・デュフィの世界

モーツァルト頌 ラウル・デュフィの世界

ヴァンスの噴水 ラウル・デュフィの世界

サーカスの馬 ラウル・デュフィの世界

ル・アーヴルに寄港するイギリス艦隊 ラウル・デュフィの世界

ニースの桟橋 ラウル・デュフィの世界

ニースのカジノ ラウル・デュフィの世界

窓の開いた室内 ラウル・デュフィの世界

ドーヴィル競馬場 ラウル・デュフィの世界

静物 ラウル・デュフィの世界

インド女のいる室内 ラウル・デュフィの世界

デュフィ夫人の肖像 ラウル・デュフィの世界

ラ・ヴィ・アン・ローズ ラウル・デュフィの世界

カウズのレガッタ ラウル・デュフィの世界

アンフィトリテ ラウル・デュフィの世界

歌姫のいるオーケストラ ラウル・デュフィの世界

ヴァンスのアトリエの裸婦 ラウル・デュフィの裸体画

オレンジのコンサート ラウル・デュフィの世界

赤いバイオリン ラウール・デュフィの世界

バッハ頌 ラウル・デュフィの世界

ゲルマ小路のアトリエ ラウル・デュフィの世界

ドビュッシー頌 ラウル・デュフィの世界

アネモネ ラウル・デュフィの静物画



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