壺齋散人の 美術批評
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神殿から商人を追い払うキリスト:エル・グレコの幻想




キリストが布教の途中で、商人たちを神殿から追い払った話は福音書に出て来る。たとえばヨハネ伝は、その様子を次のように記している。「さて、ユダヤ人の過越の祭が近づいたので、イエスはエルサレムに上られた。そして牛、羊、鳩を売る者や両替する者などが宮の庭にすわり込んでいるのをごらんになって、縄で鞭を造り、羊も牛もみな宮から追いだし、両替人の金を散らし、その台をひっくりかえし、鳩を売る人々には『これらのものを持って、ここから出て行け。わたしの父の家を商売の家とするな』と言われた」(ヨハネ伝2:13-16)

このテーマは、キリスト教美術のなかではおなじみのものだったが、反宗教改革を推進するカトリックにあっては、特に重要視された。エル・グレコは、わかっているだけでも、このテーマの絵を六枚も描いている。この絵は、その中でも最後の一枚だとされている。

神殿と思われる建物の中の中心にキリストがいる。左側には、キリストによって追い払われ、驚く表情の人々が描かれている。右手には使徒たちが描かれているが、そのうちにはミケランジェロやテツィアーノなどの同時代人の顔を描き込んだものもあると指摘されている。

躍動感のある人体、原色の配置など、エル・グレコらしさが極めてよく現れている。

なお、このテーマの他の作品も、人物の配置は殆ど同じで、ただ背景の建物に多少の変化がある程度だ。この絵の場合には、アーチの両側の壁に、アダムとイヴの楽園追放の様子と、イサクの燔祭の様子が描かれている





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