壺齋散人の 美術批評
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トレドの眺望:エル・グレコの幻想




トレドは、スペインにおけるエル・グレコの活動拠点となった都市だ。エル・グレコがここを選んだ最大の理由は、ここにギリシャ人のコロニーがあったことだと言われるが、それと並んで重要なことは、この都市が反宗教改革の拠点であっという点だ。反宗教改革の拠点としてこの都市は、カトリックの宗教的雰囲気を濃厚に醸し出していた。エル・グレコにはその点が非常に魅力的だったのだろう。

この絵は、トレドの風景を描いた単なる風景画ではない。反宗教改革の拠点として、濃厚なカトリックの雰囲気に彩られた宗教的な空間を描いたものなのだ。独特の雰囲気を漂わせた空と、その下に広がるトレドの街は、まさに宗教都市としての趣を強烈に感じさせる。

とりわけ空の描き方に注目してみると、この空は後期のエル・グレコの作品には、どれにも見られるものだ。暗鬱なブルーを基調にして、そこに白い雲がかかる。時には、雲の合間から白い月が顔を出して、画面一面にファンタスティックな趣を付け加える。その趣こそ、エル・グレコが宗教的な感性とて重要視していたものだと考えられる。

こんなわけでこの絵は、多くの美術批評家から、宗教的な風景画として説明されてきた。

(1610年頃、キャンバスに油彩、121×109cm、ニューヨーク、メトロポリタン美術館)





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