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マンゴーを持つ女(Vahine no te vi):ゴーギャン、タヒチの夢





「マンゴーを持つ女(Vahine no te vi)」は、「花を持つ女」とともに、ゴーギャンが西洋流の構図で描いた肖像画の傑作だ。「花を持つ女」のほうは、ダ・ヴィンチのモナリザを想起させるのに対して、この「マンゴーを持つ女」は、同じくダ・ヴィンチの「白貂を抱く女」を想起させる。「白貂を抱く女」は、両手で白貂を抱いた女が、頭を体と反対向きにしているところを描いているが、この絵でも、女は体と反対の方へ顔を向けている。

裸体ではなく、体全体を覆う服を着ているところも西洋風だ。だがその西洋風の服に包まれた女の肉体の豊穣さは、タヒチのものだ。女が右手で持っているマンゴーも豊穣の象徴である。ゴーギャンはタヒチの豊穣さを西洋風のエレガントさと組み合わせることで、地上の女性の美の極致を演出しようとしたのだろう。

この絵の構図は、「花を持つ女」以上にシンプルだ。画面全体をほぼ女の体で埋め尽くし、背景は最小限に縮小されたうえに、原色の黄色で埋めている。背景に原色を使うところは、ゴーギャンの発明といってよい。女の服が黄色とは補色関係の紫を使うことで、劇的なコントラストを醸しだしている。

モデルについては、いろいろと憶測がある。ゴーギャンが現地妻にした少女テハナだとする説もあるが、この絵の中の女性は、当時13歳だったテハナにしては大人びすぎている。



これは女の表情の部分を拡大したもの。ぶあつい唇が、豊穣を物語っている。うつむき加減の眼が、なにやら精神の動きを感じさせる。(カンヴァスに油彩 72.7×44.5cm ボルティモア美術館)





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