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星月夜と糸杉の道:炎の画家ゴッホ





ゴッホは1889年の6月頃に糸杉をテーマにした絵を二点描いた。そのうちの一点は先に紹介した「糸杉」で、これは日中の風景を描いていた。もう一点は「星月夜」というもので、これは星が出ている夜中の風景のなかでの糸杉を描いていた。ゴッホはこれらの絵を、自分の飛躍の現れと捉えていたのだが、友人のベルナールやゴッホはそれを評価してくれなかった。

その一年後にゴッホは再び糸杉をモチーフにした絵を描いた。これは夜景という点では、「星月夜」と共通していた。もっとも画面は「星月夜」が横長なのに、こちらは縦長で、「星月夜」には左側に糸杉を配し、右上の三日月を始め、多くの星が描かれているのに、こちらは中央に糸杉を配し、その左右に三日月と一つの星を描いているという相違はあるが。

ゴッホは手紙のなかで、自分が糸杉を描くのはこれが最後だと書いた。どういうつもりでそんなことを書いたのか、知る由もないが、ゴッホはその二か月後にピストル自殺を図るわけだから、意味深長な意図を感じないでない。

この絵の構図上の特徴は遠近感をきかせていることだ。その遠近感は、右手前の道やそこを歩いている人物から醸し出される。それに対して糸杉や月や星は、あらゆるスケールを排除するような絶対的ともいえる存在感を主張しているように見える。

(1890年5月 カンバスに油彩 92×73㎝ オッテルロー、国立クレラー・ミュラー美術館)




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