壺齋散人の 美術批評
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イーゼルの前に立つ自画像:ゴッホの自画像16




「イーゼルの前に立つ自画像(Self-Portrait in Front of the Easel)」と題したこの絵は、パリ時代の最後の自画像とされている。ゴッホがパリにいたのは、1886年3月から1888年2月までのわずか2年足らずの期間だが、その間にゴッホは28点の自画像を描いた。そのなかでもこの自画像はもっとも完成度の高いものと言える。これまでの作品が、多分に実験的な意図から、あるいは自分自身のために描いているのに対して、この作品は、構図と言い、色遣いと言い、明らかに観客の目を意識した作品である。

ゴッホ自身もそのことを意識していたようで、弟宛の書簡のなかでこの作品に触れ、自画像についての自分の考え方を述べている。自画像は写真ではなく、もっと深いものを感じさせなければならないと。そういいながらゴッホは、自分がその深いものの表現に成功したと誇っているようなのである。

この自画像には、ゴッホが日頃用いていたパレットが描かれている。パレットに乗っている絵の具の色はどれも鮮やかだ。先の手紙の中でゴッホは、これらの色がレモン・イェロー、ヴァ―ミリオン、ヴェロネーゼ・グリーン、コバルトブルーなどで、髭のオレンジを除けばみな原色だといっている。ゴッホはこれらの原色を混ぜ合わせたり、あるいはそのまま塗ったりして、独特の色彩感を演出しようと努めたのだろう。

(1888年初、キャンバスに油彩、65.0×50.5cm、アムステルダム、ファン・ゴッホ美術館)





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