壺齋散人の 美術批評
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旧体制の復活:ゴヤの版画



(公共善に反して)

1814年にナポレオンが失脚すると、フランスによるスペイン侵略は終わりを告げた。スペインは、自力で勝ったわけではなく、いわば棚ぼた式にフランスのくびきから解放されたわけだ。だが、解放されたスペインには、ゴヤにとって面白くない事態が待っていた。フェルナンド七世と、彼に代表される旧体制が復活したのである。

この絵に描かれた奇妙な怪物は、旧体制の権化だと考えられる。その怪物が書物に記しているのは、フェルナンド七世の布告だと解釈されている。いまや復活して戻ってきた旧支配者が、戦争で疲弊した国民に向かって、自らの権力を顕示するのである。

「公共善に反して」という題名は、フェルナンド七世と旧体制の復活が、スペインにとって公共善に反しているという主張を内在させている。彼らは公共善に反して自分たちの私的利益を推進しようとしている。怪物の頭に生えたこうもりの羽のような翼と、猛禽類のような爪とは、復活した旧支配権力の残虐さが、フランス兵のそれに劣らないことを物語っている。


(結末はこれだ)

この絵は、フェルナンド七世と旧支配層とがスペインを食い物にしている様相を描いたものと解釈される。死にそうになって(あるいは死んで)横たわっている男がスペイン、それに群がり寄って、男の肉を貪り食おうとしている怪物たちが、フェルナンド七世と旧支配層なのである。

スペインは、長い戦いの末やっと独立を回復したと思ったら、今度は旧支配層によって食い物にされようとしている。民主派のゴヤにとって、それは悪夢以外の何者でもなかった。

邪悪な怪物をこうもりや猛禽類の姿であらわすのは、ゴヤの常道である。





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