壺齋散人の 美術批評
HOME ブログ本館 | 東京を描く 水彩画 日本の美術 西洋哲学 プロフィール BBS

グスタフ・クリムト:エロスの申し子 作品の鑑賞と解説


グスタフ・クリムト(Gustav Klimt, 1862 – 1918年)は、いわゆるベル・エポック時代を代表する画家であり、またエロスに徹底的にこだわった画家である。エロスは古くから西洋美術の主要なテーマだったが、クリムトほどそれについて自覚的に向き合った芸術家はいない。そんなクリムトをエロスの申し子と呼ぶものもある。なにしろクリムトは、大勢のモデルに子を産ませたほどで、エロスの快楽に身をもって耽っていたのである。

十九世紀の末から二十世紀の初頭にかけて、ウィーンはパリと並んでヨーロッパの精神文化の中心地だった。建築、美術、絵画などの諸芸術や、フロイトの心理学、ウィトゲンシュタインに代表される哲学など、ウィーンはさまざまな学芸分野で、ヨーロッパをリードしたのであった。その時代のウィーンの雰囲気をさして、ベル・エポックと呼ぶこともある。この言葉は同時代のパリについて用いられるのが普通だが、ウィーンもまたパリに負けないほどの文化的なオーラを放っていたのである。そのベル・エポックのウィーンを代表する画家がグスタフ・クリムトだったわけである。

グスタフ・クリムトは、1890年代から第一次大戦が終わる1918年まで、つねにウィーンの美術界をリードし続けた。ウィーンの美術界は、パリのそれほどの伝統と厚みをもたなかったが、クリムトの登場によって、世界の絵画の動きを牽引するまでに至った。

美術史上におけるグスタフ・クリムトの位置づけは、分離派とか表現主義とのかかわりで語られることが多い。しかし、分離派といっても、明確なコンセプトがあるわけではなく、旧来の印象的な美術に対決するという姿勢を共有するほか、特に共通したものをもっていたわけではない。また表現主義についても、クリムトが主体的にかかわったといえるわけではない。そんなことから、クリムトの作風は、特定の美術的な分類に収まるほど単純なものではないし、またクリムト内部においても意識の変遷があり、それに従って作風も変化していったということもある。変化しなかったのは、クリムトのエロスへのこだわりである。

グスタフ・クリムトの父親は金細工師であった。クリムトは幼い頃から父親の仕事を真似ていた。それゆえ彼の絵には、視覚的な芸術というよりは、手触りをともなった装飾品としての性格がある。彼はまず、芸術家としてよりは、職人として出発したのである。

グルタフ・クリムトはウィーンの工芸学校を出た後、弟のエルンスト、画家のマッチュと共同アトリエを創立し、主に公共建築の装飾画の注文を受けることからキャリアを出発した。当初は非常にリアルな絵を描いていた。

1897年に分離派が結成されると、グスタフ・クリムトはその会長に納まったが、これは特定の画風を押し出した芸術運動というよりは、因習的な画壇に対抗したカウンター・カルチャーとしての性格が強かった。それでもある程度の傾向性は見られた。それは一言で言えば、アール・ヌーボー的な動きであって、絵画に装飾性を持ち込もうとする点に特徴があった。もともと絵画における装飾性に親和的であったクリムトにとっては、自分の肌にあった傾向だったといえよう。

グスタフ・クリムトの画風は、時代の変遷にともなって変化した。当初のリアルな画風から、黄金様式といわれる金ぴかな装飾性の強い画風、そしてオリエンタリズムを取り入れた色彩豊かな装飾画を経て、最晩年には精神的なものを感じさせるようなものへと変遷していった。といっても、クリムトはわずか55歳の生涯を生きたに過ぎず、絵画の巨匠として本格的に認められるのは30歳を過ぎてからのことだから、その芸術家としての盛りは20年あまりのことにすぎない。この短い期間に、めまぐるしく画風を変えたとも言える。ただ、上述したように、一貫してエロスが、クリムトの創作意欲を刺激しつづけたのである。

上の写真は、グスタフ・クリムトの晩年に撮影されたものである。クリムトは自画像というものを描かなかったが、そのかわりに写真は多く残した。それらを見ると、クリムトはずんぐりむっくりした体型で、顔つきもどちらかといえば野卑な印象だ。芸術家というよりは、農夫かあるいは職人を想起させる。

ここではそんなグスタフ・クリムトの代表的な作品を取り上げ、鑑賞しながら適宜解説・批評を加えたい。


医学(Medizin):クリムト「ウィーン大学講堂天井画」より

ソニア・クニップスの肖像(Bildnis Sonja Knips):クリムトの肖像画


パラス・アテナ(Pallas Athene):クリムトのエロス

ヌーダ・ヴェリタス(Nuda Veritas):クリムトのエロス

ユーディットⅠ(JudithⅠ):クリムトのエロス

金魚(Goldfische):クリムトのエロス

エミーリエ・フレーゲの肖像(Boldnis Emilie Flöge):クリムトの肖像画

幸福への憧れ:クリムトのベートーベン・フリーズⅠ

敵対する勢力:クリムトのベートーベン・フリーズⅡ

歓喜の歌:クリムトのベートーベン・フリーズⅢ

希望Ⅰ(Die HoffnungⅠ):クリムトのエロス

一生の三時期(Die drei Lebensalter):クリムト

マルガレーテ・ストロンボロ=ウィトゲンシュタインの肖像:クリムトの肖像画

フリッツァ・リートラーの肖像(Boldnis Fritza Riedler):クリムトの肖像画

水蛇Ⅰ(WasserschlangenⅠ):クロムとのエロス

水蛇Ⅱ:クリムトのエロス

アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像:クリムト

接吻(Der Kuß):クリムトのエロス

ダナエ(Danae):クリムトのエロス

ユーディットⅡ:クリムトのエロス

黒い羽毛の帽子(Der schwarze Federhut):クリムト

アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅱ:クリムト

メーダ・プリマヴェージの肖像(Boldnis Mäda Primavesi):クリムト

乙女(Die Yungfrau):クリムトのエロス

エリザベート・バホーフェン=エヒトの肖像:クリムト

フリーデリケ・マリア・ベーアの肖像:クリムト

死と生(Der Tod und Leben):クリムト

女友達(Die Freundinnen):クリムトのエロス

アダムとイヴ(Adam und Eva):クリムトのエロス

花嫁(Die Braut):クリムトのエロス

ヨハンナ・シュタウデの肖像:クリムト


HOME









作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011-2017
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである