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ソニア・クニップスの肖像(Bildnis Sonja Knips):クリムト





クリムトには裕福な実業家のパトロンがいた。当時のオーストリアの画家には、クリムトに限らずパトロンがついていたものだが、クリムトや分離主義の芸術家を熱心に応援していたのは、ユダヤ人実業家たちだった。鉄鋼業のウィトゲンシュタイン、繊維業のヴェルンドルファー、金属産業のクニップスといった人々だ。クリムトは彼らの家族のために肖像画を描いた。クリムトの肖像画は非常にリアルでしかも芸術性に富んでいるというので、ウィーンの社交界では名声が高かったようだ。

これは実業家アントン・クニップスの妻ソニアの肖像画。当時25歳のソニアを、リアルなタッチを基本に描いている。人物のリアルさは、肖像画の命ともいうべきもので、シュールな画法のクリムトも肖像画を描くときはリアルさを重んじた。もっとも、表情や体形をリアルに描く一方で、背景や小物の配置には、クリムトらしい遊びの感覚を取り入れている。

この絵の場合には、表情をリアルに描く一方、衣装は印象派風にふわりとした感じに描き、また背景は思いっきり暗くすることで、モデルが浮かび上がってくるように工夫している。モデルが右手に持っている赤い手帳のようなものは、クリムトが日頃愛用していた小型のスケッチブックだそうだ。

画面が正方形なのは、肖像画としては珍しい。クリムトは正方形の画面が好きだったらしく、このほかにも多く採用している。その中には、普通は縦長の画面に描かれる全身像も含まれている。



これは、ソニアの表情の部分を拡大したもの。背後に花が見えるが、これは切り取られた花が空中に浮かんでいるように見える。ジャポニズムの影響だろうと指摘される。

(1898年 カンヴァスに油彩 145×145cm ウィーン、国立オーストリア美術館蔵)




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