壺齋散人の 美術批評 |
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パラス・アテナ(Pallas Athene):クリムトのエロス |
アテナはギリシャの都市アテネの守護神であるが、ギリシャ神話では戦いの女神とされている。鎧を着て、雄たけびの声を上げながらゼウスの頭から生まれたとされるこの女神が、どういういきさつで商業都市アテネの守護神になったか、そこには興味をそそる物語があったに違いない。 クリムトはこの絵を、彼が中心となって1897年に発足した芸術運動「分離派」のシンボルとして作成した。分離派というのは、因習的な芸術からの分離を目指すという運動の方向性を掲げるもので、特定の様式などを共有するわけではなかった。芸術の古い絆からの解放を目的としたものだったわけだ。クリムトがこの運動体の初代会長になったことで、クリムトの様式と関連付けられることもあるが、かならずしも分離派=クリムトということにはならない。 「ソニア・クニップスの肖像」同様の正方形の画面の中に、武装した女神アテナの半身像が描かれている。アテナは甲をかぶり鎧を着て、左手には槍の柄を抱えている。これらはすべて金で出来ており、絵にも金箔が使用されている。クリムトの父親は金細工師で、クリムト自身も子どものころから金細工に親しんでいたので、こういう芸当は得意だったのである。 胸元にのぞいているのはゴルゴンの顔。これを見る人を石に変えてしまうといわれるギリシャ神話上の怪物だ。心無いものがこの絵を見たら石に変えてしまうぞ、と徴発しているように見える。 アテナの右手には小さな裸体の女性が立っているが、これは勝利の女神ニケだとされる。アテナに協力して、分離派の運動を勝利に導くというわけだろう。 背景は暗くなっているが、塗りつぶされているわけではなく、人物像が描かれている。それらもギリシャ神話に出てくるキャラクターなのだと思う。 これはゴルゴンの頭の部分を拡大したもの。ゴルゴンは何故か舌を出しておどけた表情をしている。芸術に無理解な連中を嘲笑しているのだと解釈されている。 (1898年 キャンヴァスに油彩 75×75cm ウィーン市立歴史美術館) |
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