壺齋散人の 美術批評
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一生の三時期(Die drei Lebensalter):クリムト





「一生の三時期(Die drei Lebensalter)」は、女性の生涯の三つの時期をイメージ化したものである。人間の生涯を三つの時期あるいは段階にわける考え方は、スフィンクスがオイディプスにかけた謎の神話以来ヨーロッパ人に馴染みの深いものだったが、クリムトはそれを、女性の人生に即して展開して見せたわけだ。

画面ほぼ半ばに、生まれてまもない小さな女の子と、それを抱いている若い母親が描かれ、その左脇に一人の老女が横向きに立ちながら、左手を額に当て、なにやら考え込んでいるとも、あるいは絶望しているとも思われるような仕草を見せている。これらがあいまって、女性の生涯の三つの時期を総合的なイメージに仕上げている。

母親は、ほぼ直角に曲げた首を我が子にもたれかけ、深い慈しみの表情を見せている。子どもの方は、母の慈しみに囲まれて、安心して眠っている。一方、老女のほうは、干からびた肌と突き出た腹が、魚の干物のような印象を与える。

この老女は、ロダンの彫刻「昔は美しかった兜鍛冶の女」を借用したものとされる。この作品はフランソワ・ヴィヨンの遺言詩集からヒントを受けたもので、老いさらばえた老女が岩の上に腰を下ろしている姿であらわされているのだが、クリムトはこのように、横向きに立った姿勢に描いた。そのことで、老女の老醜とそれへの嘆きがより劇的に表現できると考えたからだろう。

人間は真正面から見るよりも、横から見たほうが、その内面により近く達することが出来るのかもしれない。クリムトはそれを、画家の直感で感じ取ったのだろう。



これは、三人の上半身の部分を拡大したもの。母親の髪飾りと背後のモザイク模様とが一体化するかなで、母親と子どもも一体化している。一方老女のほうは、ひとりだけ疎外されて、深い絶望に沈んでいるように見える。老女のしぼんで垂れ下がった乳房と、ガスで膨らんだ腹が、老醜のおぞましさを語っているようだ。

(1904年 カンヴァスに油彩 180×180cm ローマ 国立近代美術館)





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