壺齋散人の美術批評
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月光下に石炭を積み込みする乗員 ターナーの風景画




「月光下に石炭を積み込みする乗員(Keelmen Heaving in Coals by Moonlight)」と題されたこの絵は、もともと「イングランドの河川」をテーマにした水彩画のシリーズの一つ「タイン河畔のシールズ」に基づいたものだが、これを発注したのは「ヴェネツィア」を発注した実業家である。その実業家は、かつては栄華をほこり、今では色あせつつあるヴェネツィアの港と、いまや勃興しつつあるイングランドの港とを対比させたいという意向をもっていたと言われる。

モチーフのタイン川は、ニューキャッスルを流れる川で、広い河口は産業用の港としてにぎわっていた。この絵は、その港に停泊した船のうえで、乗員が石炭を積み込む作業を描いている。ミソは、夜間でも月光をたよりに船積み作業が行われているということで、イギリスの工業力を象徴するような風景と受けとられる。

画面のほぼなかばに、白く輝く月があり、それが放つ光が、港を含めて河口一帯を明るく照らしている。その光の処理の仕方は、後の印象派を想起させる。イギリスの絵画史上、光をこのように表現できたのは、ターナーが初めてである。

(1835年 カンバスに油彩 90×122㎝ ワシントン国立絵画館)



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