壺齋散人の美術批評
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戦艦テメレール ターナーの海景画




ターナーは海景を描くのが好きだった。そんな彼にとって、「戦艦テメレール The Fighting Temeraire, tugged to her last Berth to be broken up」は海景を描いた作品の傑作だ。この絵には、海景の表現とともに、テメレールと言う戦艦についての、かれなりのこだわりが込められている。そのこだわりとは、故国イギリスへの愛国心に発していると言われる。

テメレール号は、対ナポレオン戦争の山場ワーテルローの海戦で活躍した船である。イギリス人にとっては、とりわけ思い入れの強い船だ。なにしろイギリスの国運を象徴するような船なのである。その戦艦テメレールが、1838年に解体処分されることとなった。テームズ側に係留されていた戦艦は、下流のロザハイズで解体されることになり、タグボートでそこまでひかれていった。この絵は、そんなテメレールの姿を描いたものである。

夕日に照らされたテームズを、テメレールがタグボートにひかれていく。いテメレールとタグボートは画面左側に描かれ、それと左右対称させる形で、沈みゆく夕日が描かれる。夕日は強い光を周囲に放ち、その光を浴びて雲が赤くそまる。その赤い色は水面をも染めている。

一方、テメレールの上空には青空がのぞいていて、それが三角形を呈している。その三角形の青い空を背景にしてテメレールが浮かび上がる。その高いマストは、時代に取り残されていることを人々に感じさせる。時代は蒸気機関のほうへと変わっているのだ。

(1938年 カンバスに油彩 91×122㎝ ロンドン、ナショナル・ギャラリー)



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