壺齋散人の美術批評 |
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雨、蒸気、スピード ターナーの風景画 |
「雨、蒸気、スピード(Rain, Steam and Speed - The Great Western Railway)」と題されたこの絵は、ターナーの風景画の到達点を示すものと受けとられる。かれの風景画は次第に抽象性を高めていったが、それがこの作品では頂点に達する。モチーフの輪郭にはこだわらず、色彩でその雰囲気を出すことで、対象の存在感を表現している。その存在感は、疾走する列車のスピード感に乗って、見るものに迫ってくる。 列車が走っているのは、メイドンヘッド・ブリッジという鉄橋。ロンドン西部、テームズ側の中流に架かる橋である。グレート・ウェスターン鉄道が鉄道用に建設した橋で、いまでも昔のままにあるそうだ。その橋を駆け抜ける蒸気機関車が、この絵のモチーフである。 蒸気機関車は、イギリスの産業革命を先導したシンボル的なものだ。列車のほか、船の動力としても使われた。ターナーは蒸気船にも大きなインスピレーションを感じ、多くの作品のモチーフにしている。 雨や、川から立ち上る霧など、列車をとりまく環境は荒っぽい筆致でざっくりと表現されている。そのざっくり感が、この絵に独特の抽象性をもたらしている。 (1844年 カンバスに油彩 91×121.8㎝ ロンドン、ナショナル・ギャラリー) |
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