壺齋散人の 美術批評
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喜びの女王:ロートレックのポスター





ヴィクトル・ジョーズのペンネームで活躍していたポーランド人の作家ヴィクトル・ドブルスキーが、1892年に「喜びの女王」という小説を出版したが、その宣伝のためにロートレックにポスターの作成を依頼した。ジョーズは作家活動の傍ら「世紀末」という雑誌を発行したりしていて、なかなか活発な面があり、ロートレックとも日ごろ親しかった。そんなわけでロートレックは二つ返事でその仕事を引き受けた。

ポスターの図柄に選ばれたのは、小説の中の一シーン、すなわち女主人公のエレーヌ・ローランが銀行家のオリザックにキスする場面だった。これがジョーズ本人のアドバイスにもとづいたものだったのか、それともロートレックが原作を読んだうえでの選択だったのか、よくはわからない。ロートレックが読書好きだったという証拠はないから、おそらくジョーズのアドバイスによるのだろう。

ところがこのポスターには、思いがけない方面からいちゃもんがついた。高名な銀行家のロスチャイルド男爵が、このオリザックというキャラクターが自分をあてこすったものだと思い込み、小説とそれをイメージしたポスターに敵意を示したのだ。そんなわけで、ポスターは貼られるかどからロスチャイルドに雇われた連中にはがされてしまうありさまだった。だがそのことが別の意味で話題になり、そのおかけでロートレックの名声はますます高まったのだった。

顔料には、オリーブ・グリーン、赤、黄、黒の四色が用いられ、軽快な色彩感を出している。

(1892年 リトグラフ 130×89㎝)





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