壺齋散人の 美術批評 |
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ディヴァン・ジャポネ:ロートレックのポスター |
マルティール街75番地にあったキャバレーを、1972年にエドゥアール・フルニエが買収し、それを「ディヴァン・ジャポネ」と名付けて、徹底したジャポニズムを売りものにした。そのため店を全面改修し、内部を日本風に装飾したうえで、店の雰囲気を如実に物語るポスターをロートレックに依頼した。ロートレック自身ジャポニズムに興味をもっていたから、この仕事は楽しかったに違いない。 もっともこの画面を見る限り、ジャポニズム趣味はあまり目立たない。中央部の女が座っている椅子は別に日本風でもないし、この女を含めて、登場人物の誰にも日本風の雰囲気は感じられない。どうみてもフランス風だ。 中央に描かれているのは、当時の人気ダンサー、ジャンヌ・アヴリールで、彼女の隣に座っているのは評論家のエドゥアール・デュジャルダンだ。また遠景に首から下をのぞかせているのは歌手のイヴェット・ギルベールだと言われる。彼女のはめている黒い手袋は、イヴェットのトレードマークとして知られていたからだ。 これらの人物たちをフィーチャーしたのは、フルニエの意向によるのか、そのへんはよくわからない。ジャンヌ・アヴリールについては、ロートレックはほかのいくつもの作品でモデルにしているから、個人的な付き合いもあったのだろう。 このポスターもやはり大変な評判になった。雑誌「正義」の中でギュスターヴ・ジェフロアが、「今やロートレックのポスターはパリの街を揺るぎない権威を以て征服した」と書いたほどである。 このキャバレーは、当時のフランスにおける日本趣味に便乗したものだったが、長続きはしなかった。わずか二年で閉店に追い込まれ、コンセール・リスボンという名の普通のキャバレーに模様替えしたのだった。 (1892年 リトグラフ 79×59㎝) |
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