壺齋散人の 美術批評
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老音楽師:マネ





「老音楽師」と題したこの絵は、かなり奇妙な構図に見える。七人の人物が配されているのだが、彼らの間にはあまり関連性がない。みな銘々に勝手な姿勢をとっている。視線も一人の少年のそれを除けば、テンデバラバラである。しかも彼らは荒野のようなところでかたまっているのだが、これもまた必然性を感じさせない。というわけでこの絵には全体を統一する理念のようなものがない。その結果分裂気味に感じられる。

こういう指摘は当初からなされていた。そしてその理由を多くの美術評論家は、さまざまな先行作品から集めて来たイメージを、ここにさしたる意味もなく混在させたことに求めた。実際、画面右端近くの帽子をかぶった男は、マネ自身の作品「アブサンを飲む男」をそのまま持ってきたものだし、左手の白い服を着た少年はワトーの「ジル」を借用したものだし、老音楽師はアントワーヌ・ルナンの影響が指摘されている。

その老人のイメージをヘレニズム時代の彫刻クリュシッポスと結びつける見解もあるが、色々な証言によると、この老人はマネのアトリエ近くの「小ポーランド」というゲットーで知り合ったユダヤ人だということだ。

また左手の赤ん坊を抱いた女は、町を歩いていた時に、偶然知り合った女だと言う。彼女が居酒屋から出て来た様子がマネの関心を惹き、その場でモデルになってくれとマネは頼んだらしい。

(1862年 カンバスに油彩 188×249㎝ ワシントン、ナショナル・ギャラリー)




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