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笛を吹く少年:マネ





マネは1866年のサロンに、「悲劇役者」と題する絵と共にこの「笛を吹く少年」を出展したが、どちらも落選した。しかも今回は、「草上の昼食」や「オランピア」の時のような、マイナスではあるが大きな反響を呼ぶこともなかった。大方の美術批評家から黙殺に近い扱いを受けたのである。

その中でただ一人マネのこの絵を熱心に称賛したのは、駆け出しの作家だったエミール・ゾラであった。ゾラが評価したのは、この絵の単純な力強さだった。一切の装飾を廃して、無地の背景から浮かび上がる少年は、あたかも画面から勢いよく飛び出てくるように見える。それがこの絵の命だが、今日の美術家にはその良さがわからないのだ。そういってゾラはマネのこの絵の画期的な新しさを称賛した。

ゾラは言う。「誰も言わないから、私が言おう。私が叫ぼう。私はマネ氏が明日の巨匠のひとりとなることを確信している。だから、もし私が裕福なら、マネ氏の油絵をすべて買い占めることで、一儲けできるのにと考えているのである」(遠藤ゆかり訳)

マネのこの作品には先行作がある。ベラスケスの「道化師パブロ・デ・バリャドリード」である。ベラスケスのその作品をマネは、人物のまわりに空気のほか何もないと言い、これまでに描かれたもっとも驚くべき作品と呼んでいたが、その驚くべき描き方を自らも実践して見せたのである。

モデルは、帝国衛兵のマスコット的存在だった鼓笛隊員の少年である。幼さの残るその顔つきには、女性らしさも感じられる。

(1866年 カンバスに油彩 161×97㎝ パリ、オルセー美術館)




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