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皇帝マクシミリアンの処刑:マネ





メキシコ皇帝マクシミリアン処刑のニュースが、パリ万博で湧いていた最中にもたらされた。マクシミリアンはハプスブルグ家の一員だったが、フランス皇帝ナポレオン三世の要請によってメキシコ皇帝についていた。しかしメキシコの独立をめぐる内乱のさなか、独立派のファレスによって銃殺されたのだった。それには、皇帝でありながら自前の強い軍隊を持たず、フランスの軍事力に頼っていたという事情があった。フランス軍が彼を見捨てて去って行ったために、無防備の状態になってしまったのである。

マネが、この事件になぜ大きな関心を持ったのか、よくわからないが、異常な熱心さをもってその様子をイメージ化したのは間違いない。その結果この大作が生まれた。マネはこの作品を、ゴヤの有名な「五月三日」を下敷きにして描いた。ゴヤの絵が、これから発砲されようとしている緊迫感を描いているのに対して、この絵では、銃殺が行われた瞬間の奇妙な静けさを描いている。

画面左手にマクシミリアン皇帝を真ん中にして三人の人物が立ち、それを七人の兵士が狙い撃ちにしている。七人のうち一人は、なぜか銃の手入れをしている。七人ともフランスの軍服を着ているところがミソだ。あたかもマクシミリアン皇帝を殺したのはフランスだといわんばかりだ。

というわけでこの絵には政治的なメッセージを読み取ることもできる。そんなことからこの絵はフランス国内では展示できなかった。初めてフランスで展示されたのは、事件のほとぼりがさめた1879年になってのことだ。

(1868年 カンバスに油彩 252×305㎝ マンハイム、市立美術館)




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