壺齋散人の 美術批評
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ル・ボン・ボック:マネ





マネは1872年の8月にオランダを訪れた。目的の一つはフランドル派風俗画の画風を吸収することだった。その成果が、この「ル・ボン・ボック」である。この絵には、フランス・ハルスやフランドル派の画家の影響を強く感じ取ることができる。マネはこの絵によって、画家としての自分の世俗的名声を獲得しようと思い、満を持して1873年のサロンに出展した。

果たして反響はすさまじいものだった。マネは生涯で初めて批評家たちの拍手喝さいを浴びたのである。構図と言い、色彩と言い、ヨーロッパ絵画の伝統を踏まえたこの絵は、見る人々に奇妙な安心感を与え、しかも人物のユーモラスな設定が人々の心を和ませたのだ。

太鼓腹の男が、右手にパイプを加え、左手にはビールのジョッキを持っている。この赤ら顔で善良な表情の男は、パリの街角でよく見かけるタイプで、観客たちの周辺にもいるかもしれない。そんな気安さが、この絵を更に身近に感じさせたのだろう。

マネはこの絵がサロンで成功したことに気をよくし、自分こそがヨーロッパ絵画の伝統の嫡子だという信念を強めたのである。

(1873年 カンバスに油彩 94×83㎝ フィラデルフィア美術館)




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