壺齋散人の 美術批評
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舟遊び:マネ




「舟遊び」と題するこの絵も、セーヌ川とボートの組み合わせをモチーフにしたものだ。ここでは二人の男女が小舟に乗って、ぼんやりとポーズをとっている。男はマネの義弟ルドルフ・レーンホフ、女はマネの妻カミーユだとされている。男のほうはこちら側、つまり観客に顔を向けているが、女のほうはどこ吹く風といった風情を見せている。

構図が至ってシンプルだ。背景の水面に水平線が見えないのは、上から眺め下ろすような視点から描かれているためだ。そのため、背景の水面が単調に見えがちで、その単調な背景から人物が浮かび上がって見えるように工夫されている。こうなると、風俗画というよりは、肖像画に近い。

もっともマネは、背景の水面が単調に堕さないよう、さざなみを加えて多少の動きを醸し出そうとはしている。また、画面の右上にマストの部分を描き加えることで、人物と背景との間に、多少の変化が生じるよう工夫してもいる。

人物も背景も寒色で塗られているため、全体として平板な印象はぬぐえない。背景の水を寒色で表現する一方、たとえば女の衣装を暖色にするとか、ほかに工夫はあったのではないか。

ユイスマンスは、この絵には日本の版画の影響が見られると評している。実景を額縁で仕切るようなやり方が、日本の版画を思い起させるというのである。

(1874年 カンバスに油彩 96×130㎝ ニューヨーク、メトロポリタン美術館)




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