壺齋散人の 美術批評
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ヴェネツィアの大運河:マネ




マネは1874年の9月に友人のティソとともにヴェネツィアに遊んだ。「ヴェネツィアの大運河」と題するこの絵は、その旅の収穫である。マネはサージェントやヘンリー・ジェームズの友人として知られるカーティス夫妻の招待客として滞在するかたわら、船で運河をめぐり、その上から岸辺の光景をスケッチした。この作品は、そんなスケッチをもとにして、あとで仕上げられたようである。

というのも、左手の建物の細部や遠景の様子がきわめてぼんやりと描かれているからだ。おそらくマネは、簡単なスケッチからは、自分の見た景色の詳細を再現できなくて、このような曖昧なフォルムで妥協したのだろうと思われる。床屋のネオンサインを思わせるような模様の水中の杭も、足元がゆがんでいたりして、かなり曖昧だ。

右手遠方に見える建物は、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ。運河はその寺院の麓を蛇行し、そこには大勢のゴンドラが浮かんでいる。このようなゴンドラと杭の組み合わせは、モネもまた後に描いている。

モネの水面の描き方は、光がまだらに反射するさまを印象的に描くことにあったが、マネのこの絵には、そうしたモネの影響を感じ取ることもできる。

(1874年 カンバスに油彩 57×48㎝ サンフランシスコ、保険会社コレクション)




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