壺齋散人の 美術批評
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ステファヌ・マラルメの肖像:マネ




サンボリズムの巨人といわれる詩人ステファヌ・マラルメは、マネよりも十歳年少だったが、マネの才能にいち早く注目し、高く評価した文学者たちの一人だった。そんなマラルメにマネは心を許し、二人は生涯仲よく付き合った。主としてマラルメがマネのアトリエを訪ね、美術やその他の芸術について熱く語るというのが彼らの関係だったようだ。

この作品は、マラルメの飾らない日常のひと時の様子をスケッチしたものだ。これをゾラの肖像画と比較すると、その差異が際立って見える。ゾラは文学の巨匠らしく、いかめしい雰囲気に包まれて描かれているのに対して、この絵の中のマラルメは、椅子に身をあずけ、煙を立てるパイプを無造作に握った、リラックスした風情に描かれている。マラルメの眼は、何かを瞑想しているようである。

マネはこの絵を、簡単なスケッチをもとに描いたそうである。スケッチ自体にもほとんど時間をかけず、一筆書きのようにあっさりと書いた。それをもとにして後で油彩画に仕上げたのだが、そんなことができたのも、マネが日頃マラルメの表情を深く観察していたからだろう。

マネはまた、マラルメによるポーの「大鴉」の翻訳の為に挿絵を描いたり、マラルメ自身の詩「牧神の午後」のために木版画の挿図をいくつか描いてやったりした。

(1876年 カンバスに油彩 27.5×36㎝ パリ、オルセー美術館)




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