壺齋散人の 美術批評
HOME ブログ本館 | 東京を描く 水彩画 日本の美術 プロフィール 掲示板


ナナ:マネ




ナナは、エミール・ゾラの小説「居酒屋」に出てくる少女の名である。その少女が大人になった姿をマネはこの絵に描いた。「居酒屋」の中では、ナナが娼婦になるとは書かれていなかったが、マネはそうなることを前提としてこの絵を描いたのだった。そういうわけだろうか、ゾラはこの絵の三年後に小説「ナナ」を発表した時に、ナナを娼婦として描いた。そこにマネとゾラとの奇妙な交際を見る事も出来よう。

この絵の中のナナは、下着姿で鏡に自分の姿を映し出している。このポーズはおそらく「居酒屋」の中の次のような文章に触発されたと考えられる。「朝早くから彼女はシュミーズのまま、箪笥の上にかけられた鏡の前に何時間もいた・・・彼女は若さを、そして子どもであり一人前の女である自分の裸を、心地よく感じていた」

絵の中のナナは、盛装した男の前で下着姿になっている。ということは彼女が娼婦であることをことさらに強調しているわけだ。しかも彼女の背後の壁紙には鶴が描かれている。鶴はフランス語では娼婦の意味を併せ持っているのだ。

ナナのモデルをつとめたのは、当時パリで高級娼婦として知られていたアンリエット・オゼールである。マネは彼女に気持ちよくポーズを取ってもらうために、アトリエの一角に特別の細工を施し、寒さを感じさせないように暖房まで用意したという。

マネはこの絵を1877年のサロンに出展したが、みだらという理由で落選した。

(1877年 カンバスに油彩 150×116㎝ ハンブルグ美術館)




HOME マネ次へ









作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011-2019
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである