壺齋散人の 美術批評
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ビヤホールのウェイトレス:マネ




マネは1877年の冬から翌年にかけて、サロンに出展するための大作にとりかかった。それをマネは「ライヒスホーフェンのカフェ・コンセール」と題するつもりだったが、なぜか計画を途中で放棄し、画面を二つの切り分けたうえで、二つの独立した作品に仕立て直した。その右半分がこの「ビアホールのウェイトレス」であり、左半分が「カフェにて」である。

パリのビアホールにウェイトレスが登場するのは比較的新しい現象だったらしい。マネはそれをいち早く取り上げたわけで、そういう点でこの絵には、風俗画的な要素がある。

この絵の中には、ジャンパー姿の労働者とならんで、燕尾服の男がカウンターに座っており、諸階層の人間が雑多に入り混じっている。その客たちに向かって、いままさにウェイトレスがビールを運んできたところだが、彼女はなぜか客の方ではなく、あらぬ方に目を向けている。

背景の舞台の上では女優が立っているが、その姿の一部分がのぞき見えるだけである。これは画面を無理に切り取ったためだと思われる。

モデルの女性は実際にビアホールで働いていたという。その彼女にマネがポーズを頼んだところ、彼女は自分の色男も一緒にポーズさせてくれと主張した。マネは彼女の言い分を聞いた。そんなわけでこの絵の中には、現実の男女のカップルが二人ながら描かれているわけである。

(1879年頃 カンバスに油彩 77.5×65㎝ パリ、オルセー美術館)




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