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ムーア風の衝立と娘たち(Jeunes filles au paravent mauresque):マティス、色彩の魔術





1920年代に入るとマティスは、再び具象的で色彩豊かな絵を描くようになる。今度の場合は、具象的なフォルムは肉感的になり、色彩もそれに応じて感性的なものになった。この背景には、マティスのたびたびのモロッコ旅行がある。モロッコに旅行したことでマティスは、ある種の異国趣味を搔き立てられ、それを絵の中に反映させようとして、このような感覚的な絵を描くようになったのだと思われる。

「ムーア風の衝立と娘たち(Jeunes filles au paravent mauresque)」と題したこの絵は、マティスのモロッコ趣味を強く感じさせる。衝立に施された文様はモロッコ風なのだろう。モロッコ風といえば、アラベスクと同義と考えられたから、この文様はアラビアの異国趣味の象徴である。そうした文様は、衝立のみならず、壁や床の絨毯なども埋めている。部屋中が模様だらけなのは、「画家の家族」を思い出させるが、「画家の家族」がいる部屋は花柄で埋められていたのに対して、この絵の中の部屋はアラビア文様で埋められている違いがある。

こうした文様のために、画面全体が装飾性を強く感じさせる。具象的になったからといって、マティスはリアリズムには頓着しなかった。そのため、遠近感は考慮されていないし、光のもたらす陰影も無視されている。それでいて、一定の空間を感じさせるのは、二人の娘が描かれているためだろう。

二人のうち、立っているのはモデルのアンリエット・ダリカレル、座っているのはマティスの娘マルグリットだ。アンリエットは、20年代に多く描かれたオダリスク・シリーズのモデルになった女性だ。

(1921年 キャンバスに油彩 90.8×74.3cm フィラデルフィア美術館)





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