壺齋散人の 美術批評
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農家の少年:モディリアーニの肖像画




南仏でのモディリアーニは、近所のごく普通の人たちをモデルにして肖像画を描き続けた。それには友人・知人たちに対するような遠慮がなかったので、モディリアーニは自分の画想を純粋に絵の中に定着することができた。実際、南仏時代に描いた肖像画からは、のびのびとした雰囲気が伝わってくる。

「農家の少年」と呼ばれるこの絵は、そんなのびのびとしたおおらかさを感じさせる一枚だ。モデルは膝のあたりまで画面に広がっており、ポーズはリラックスしている。それまでの肖像画の多くが、顔を大写しにし、表情の細かい部分までを丁寧に描いているのに対して、これはあっさりとした印象を与える。

この絵に、セザンヌの影響を認める評者もいる。背景を寒色でまとめ、皮膚に暖色を散りばめることでコントラストを出しているところなどは、セザンヌの影響が明らかな「チェロを弾く男」を連想させる。

この絵はまた、絵の具の使い方にも工夫がある。テレピン油でうすめて伸ばしていることから、微妙なグラデーションが生まれているが、油彩画では、そうしたグラデーションは珍しい試みだといえる。

(1918年、キャンバスに油彩、100×64.5cm、ロンドン、テート・ギャラリー)





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