壺齋散人の 美術批評
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読書する女(La liseuse):モネ




「読書する女(La liseuse)」とも、あるいは「春(Printemps)とも呼ばれるこの絵も、アルジャントゥイユでののどかな暮らしをテーマにしたものだ。草むらで腰かけて本を読んでいる女性は、妻のカミーユと思われる。彼女は大きな日よけ用の帽子をかぶり、ゆったりとした服を着て、熱心に本を読んでいる。

モネは人物を描くときに、かならず風景の中に溶け込ませるように描いた。あるいは、風景を描く時にはかならず人物を添えるのを忘れなかった。モネにとっては、人物のいない風景は殺風景で耐えられなかったし、また人物を肖像画のようにそれだけを目的に描くこともナンセンスだった。この絵には、そうしたモネのポリシーがよく現われている。

女性は大きな日かげにいるように思われるが、モネは全体が暗くなることを恐れて、ところどころ木漏れ日を描くことで、絵に輝きが出ることを狙った。特に女性の衣服の端々に見える小さな木漏れ日の点々は、まるで蛍光塗料のような輝きを見せている。

モネはこの絵も1876年の第二回印象派展に出展した。作家のエミール・ゾラが高く評価してくれた。

(1874年 カンバスに油彩 59×65㎝ ボルティモア、ウォルターズ美術館)




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