壺齋散人の 美術批評
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死の床のカミーユ:モネ




1878年の冬、モネ一家はアルジャントュイユを引き払い、やはりセーヌ川沿いの街ヴェトゥイユに移り、そこでオシュデの家族とともに暮らした。オシュデは美術商で、妻のほかに6人の子どもがいた。その妻とモネは、カミーユの死後懇ろになるのである。そしてやがて二人は再婚することとなる。

カミーユのほうは二人目の子ミシェルを生んで以来健康がすぐれなかったが、ヴェトゥイユに移ってまもなく死の床に伏した。その妻の様子をモネは、画家らしい職業意識を発揮して描いた。「死の床のカミーユ(Camille Monet sur son lit de mort)」と題するこの絵がそれである。

その折のことをモネは後日次のように書いている。「かつてあれほどいとおしんだ女性の死の床の枕もとで・・・私はもはや動かなくなった彼女の顔に、死が加え続ける色の変化を機械的に写しとっている自分に気づいた・・・私たちのもとを永遠に去っていこうとする者の、最後の姿を残しておきたいというのはごく自然なきもちだろう」

この絵の中のカミーユには、まだ命の余韻が感じられる。しかし彼女の周囲には、すでに冷たい空気がただよっていることが、ブルーとホワイトの使い方によって強調されている。とくにホワイトの使い方が効果的である。

(1879年 カンバスに油彩 90×68㎝ パリ、オルセー美術館)




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