壺齋散人の 美術批評
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ビスケット・ルフェーブル=ユティル:ミュシャの世界




ミュシャのポスターの人気に乗じて、商品広告のためのポスター作製の依頼も舞い込んできた。ミュシャは、そのポスターのモデルにもサラ・ベルナールを起用した。サラとしては、自分のイメージの普及に役立つし、ミュシャとしては、人気女優をモデルにすることで、自分のポスターの人気が高まることを期待できた。両者にとって利点があったのである。

「ビスケット・ルフェーブル=ユティル」とモチーフにしたこのポスターにも、サラ・ベルナールがモデルに使われている。ルフェーブル=ユティル社は、19世紀半ば創業の大手菓子メーカー。ビスケットはその主力商品だったようだ。

広告なので、見る者の視線が商品に集中するように描くのが普通だと思うのだが、ミュシャのこのポスターは、モデルのサラに視線が集中するように描かれている。サラへの敬意がしからしめたのだろう。

そのサラが、ビスケットを乗せた皿を手にかざし、観客に向かって「おひとつどうぞ」と呼びかけているようである。サラの表情は、みずみずしい少女のようである。

会社の名前のイニシャルであるLとFの文字を、装飾文字に仕立てて画面の右手に配している。これは広告主に対する、ミュシャの心憎い配慮だろう。なお、画面下部に、12個の枠が配されているが、これは12か月分のカレンダーの配置を想定したものだ。じっさい発売された時には、ここにその年のカレンダーが置かれていた。

(1896年 紙にリトグラフ 61.4×44.4㎝)


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