壺齋散人の 美術批評
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メデエ:ミュシャの世界




1898年に上演された「メデエ」のためのポスター。「メデエ」はエウリピデス原作のギリシャ悲劇だが、それを詩人のカチュール・マンデスがサラ・ベルナールのために戯曲化した。ルネサンス座の舞台において、サラはみずからメデエを演じた。

アルゴノートの英雄イアソンの裏切りに怒った妻のメデエが、イアソンへの復習としてかれとの間に生まれた二人の子を殺すという陰惨な話である。ポスターの図柄は、メデエが二人の子供たちを、わが手で刺し殺した場面を描く。

足元に重なり合って死んでいる子供たちを前に、呆然とした表情を見せるメデエを描く。メデエは興奮のあまり眼をかっと見開いている。その眼がこのポスターに異様な雰囲気をもたらしている。

当時のミュシャは霊媒に凝っていたといわれ、霊媒の見せる恍惚たる表情を、この絵に取り入れたようである。たしかに、サラ演じるメデエの表情には、鬼気迫るものがある。なお、この公演は、サラの人気に釣り合うほどの成功はもたらさなかったという。だが、それはテーマの陳腐さのせいではない。メデエは非常に人気のあるテーマであり、さまざまなアーチストによって繰り返し取り上げられている。小生も、ドイツの地方劇場で、現代風にアレンジした舞台を見たことがある。

(1898年 紙にリトグラフ 206×76㎝)


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