壺齋散人の 美術批評 |
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病室の死:ムンクの不安 |
ムンクの家族は、両親とムンクほか四人の子ども、計七人からなっていた。そのうち母親が、ムンクが五歳のときに、姉のソフィエが、ムンクが十三歳のときに亡くなった。こうした家族の死は、ムンクや残された家族に大きな影響を及ぼした。特に父親の悲嘆ぶりは甚だしかった。そうした悲哀がムンクに、不安に親和的な雰囲気を付与するようなった原因だろうと考えられる。 ムンクは、母や妹の死をテーマにした絵を、生涯に何度も繰り返し描いた。「病室の死」と題するこの絵もその一枚だ。この絵の中には、死につつある病人を囲んで、七人の家族が描かれている。その七人は、ムンクの家族のフルメンバーだ。ということは、ベッドの中には、具体的に名指しされるような家族の成員はいないというわけだ。ベッドの中にいるのは、死のシンボルで、家族はそのシンボルを前にして、恐れおののいているのだと解釈される。 人物の同定については、ある程度一致した解釈があるようだ。椅子に座っているのが母、その向こうで祈っているのが父、椅子に手をかけている女性が姉のソフィエ、画面左手手前で呆然とした表情で立っているのが妹のインゲル、その背後に立って背中を向けているのが弟のアンドレアス、一番手前でうつむきながら座っているのが妹のラウラ。ムンク自身は左手奥で横を向いて立っている人物だとされる。この絵の中の生きている家族も、やがて死んだり精神を病んだりするようになる。 オレンジ色に塗られた床が、画面全体に陰鬱なトーンをかもし出している。本来ならオレンジ色は、生命を感じさせる色なのだが、用い方によっては、このような精神性を表現できる。 これは、同じテーマをリトグラフで表現したもの。ベッドを囲む家族の数は五人だが、その他に空中を遊泳している亡霊のようなイメージが二人分ある。 (1893年頃 カンヴァスにテンペラとパステル 150×167.5cm オスロ国立美術館) |
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