壺齋散人の 美術批評
HOMEブログ本館東京を描く水彩画ブレイク詩集フランス文学西洋哲学 | 万葉集プロフィールBBS


メタボリズム:ムンクの愛





ムンクは、1898年にトゥラ・ラーシェンという女性と恋仲になった。この女性は若々しくて性的魅力に富んでいたが、性格に常軌を逸したところがあった。独占欲が強く、ムンクの近くを離れようとせず、つねに激しいセックスを求めた。すでに中年に差し掛かっていたムンクは、この女性の異常な性欲に悩まされた。そのために一時期、創作意欲を失ったほどだった。

この女性とは、1902年に破局がおとずれた。恐らく彼女によって拳銃で撃たれ、ムンクは入院、彼女は逃走して二度とムンクの前に姿をあらわさなかった。このこともムンクに打撃を与えた。ムンクが彼女の呪縛からほぼ完全に立ち直るのは1907年ごろだったと思われる。その年ムンクは「マラーの死」を描き、その中で彼女との永遠の分離を確認したのである。

「メタボリズム」と題したこの絵は、そんな彼女とムンクの関係をモチーフにしたものと考えられる。この絵を描いたとき(1899年)には、二人はまだ破局には至っていなかったが、全く幸福な関係ともいえなかった。ムンクは彼女の美しさに打たれる一方で、彼女の異常な愛にうんざりさせられるという、二義的な感情を味わい続けていた。この絵のなかには、そうしたムンクのトゥラに対する二義的な感情が現われているといえよう。

ムンクは、自分とトゥラとをアダムとイヴに見立て、その二人をエデンの園を思わせる森の中に立たせている。女は男に向かって手を差し伸べ、自分の愛を受け入れるよう迫っているように見える。一方男のほうは、腕を後ろのほうへ引いて、顔はややしかめ気味、かならずしも女の愛を受け入れる状態には見えない。男根もうなだれたままである。(1899年 カンヴァスに油彩 172.5×142cm オスロ ムンク美術館)



これは上述した「マラーの死」。立っている女がトゥラ、ベッドに寝そべっているのがムンクを現わしているのだと受け止められる(1907年 カンヴァスに油彩 150×200cm オスロ ムンク美術館)





HOME| ムンク |次へ









作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011-2017
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである