壺齋散人の 美術批評
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話し合うペテロとパウロ:レンブラント




「話し合うペテロとパウロ」と題されたこの作品もライデン時代の代表作の一つ。22歳の時の作品だ。「トビトとアンナ」は、聖書の中から劇的な題材を選んで、人間同士の葛藤のようなものを描いていたが、この作品は、二人の聖人の静かな対話を描いている。劇的とは言えないが、人間同士の関わり合いを描いているという点では、「トビトとアンナ」に共通するところがある。レンブラントは、人間の行動とか考えとかいうものをモチーフにすることを、若い頃から好んでいたということが、しのばれるところだ。

モチーフの典拠は、新約聖書の「ガラテア人への手紙」。もっともガラテア記の中に、聖ペテロと聖パウロとの間の会話が直接記されている場面はない。聖パウロがガラテア人に呼びかけるに際して、聖ペテロが割礼を受けたものに福音をゆだねられたのに対して、自分は未割礼のものへの福音をゆだねられたと書かれているだけである。したがってこの絵には、レンブラントの想像が大きく働いているように思える。

どちらが聖パウロかは明らかではないが、ガラテア書が聖パウロによって書かれたことからすれば、おそらく画面のうちの正面を向いている老人が聖パウロなのであろう。そのかれが、手前にいる聖ペテロに向ってかたりかけている、というような構図である。

「トビトとアンナ」以上に明暗対比が強調されている。光源は明示されていないが、影の位置からして、画面左上の手前方向だ。そこから差し込む光が、聖パウロの姿と書き物机の辺りを強く浮かび上がらせている。

(1628年 板に油彩 72.3×59.7㎝ メルボルン、ヴィクトリア国立美術館)




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