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30枚の銀貨を返すユダ:レンブラント




「30枚の銀貨を返すユダ」は、ライデン時代の代表作で、レンブラントの名を広く知らしめた作品。その頃までは、ラストマン塾の同僚で一つ年下のヤン・リーフェンスのほうが評価が高かった。しかしレンブラントは、この作品を通じて、オランダを代表する画家といわれるようになる。「話し合うペテロとパウロ」で進展ぶりを見せていた明暗対比の激しい画風が、この作品では高い完成度に達したと評価されたのである。

モチーフは福音書からとられている。マタイ伝のユダの裏切りである。ユダは銀貨30枚と引き換えにキリストを売ったのだったが、後にそのことを激しく後悔して、受け取った銀貨を神殿に投げ込み、首を吊って自殺したとある。その話に多少の脚色を加えて、ユダが30枚の銀貨を祭司長たちに投げ返す場面を劇的に描いたものだ。

神殿の前にひざまずいたユダが、五人の男たち(祭司長)の前に銀貨を投げ出し、両手を胸の前に組んで、悔悛の気持を表している場面だ。



これは銀貨の部分を拡大したもの。祭司長たちは、ユダではなく銀貨を気にしているように見える。これはレンブラントがわざとそういうふうに描いたのだろう。そう描くことで、祭司長たちの俗物性と、それにかどわかされたユダの愚かさを強調したかったのだと思う。

光源は左手にあり、それに照らされる形で、人物と銀貨とが浮かび上がって見えるように工夫されている。

(1929年 板に油彩 80×102㎝ イギリス、個人蔵)




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