壺齋散人の 美術批評
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ムーラン・ド・ラ・ギャレット:ルノワールの世界




1878年の第三回印象派展にルノワールは大作「ムーラン・ド・ラ・ギャレット(la Bal du moulin de la Galette)」を出展した。これはモンマルトルの丘の上にあるカフェで、かつて粉ひき小屋があったことから「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」と呼ばれていたところで、踊りを楽しむ人々を描いたものだ。ルノワールは、1873年以来、パリのサンジョルジョ街に住む傍ら、モンマルトルの一角にアトリエを借りており、マンマルトルは日常的に親しんだ土地である。そこで、踊りに興じる人々を描いたこの大作に、ルノワールはかなりの自信をもっていた。この作品は早速カイユボットによって購入され、彼の死後フランス政府に寄贈されることになる。

踊りを楽しんでいるのは、中産階級の人びとだろう。なかには労働者もいただろうと思われる。モンマルトルは、いまでもそうらしいが、中産階級と労働者の街だった。もっともルノワールは、個々の人物を詳細に描き込むときには、友人をモデルにしている。右手のテーブルに腰かけている二人の男性は、画家のノルベール・グヌートとフラン・ラミーだし、女性たちには、ジャンヌ、エステル、マルゴといった、ルノワールが日頃親しくしていた人たちがいる。

この絵においても、光を有効に使って、戸外での自然豊かな雰囲気を演出している。また、人々の活動している様子を、スナップ写真的に捉えたところは、いかにもルノワールらしさを感じさせる。彼には風俗画家的な一面があると、他の場所で言及したが、この絵にはそうした側面が強く感じられる。



これは、中央下部の女性たちの部分を拡大したもの。おしゃべりを楽しむ男女の、くつろいだ雰囲気がよく出ている。また、光を有効に使って、絵にハイライト効果を持たせている。

(1876年 カンバスに油彩 131×175㎝ パリ、オルセー美術館)




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