壺齋散人の 美術批評
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テラスにて:ルノワールの世界




「テラスにて(Sur la terrasse)」と題されたこの作品も、レストラン・フルネーズのテラスを舞台にしたものだ。「舟遊びする人々の昼食」と同じ頃描かれたのであろう。「舟遊び」ではあまりはっきりとは描かれていなかったセーヌ川が、この作品では背景として大きく描かれている。

そのセーヌ川を背にして、若い母親と小さな女の子がポーズをとっている。二人とも、洒落た飾りをつけた大きな帽子を被っている。母親のほうはあらぬ方向へ目をやり、女の子は画家のほうを気にしているように見える。その女の子は、トルソー部分だけが描かれており、そこが中途半端さを感じさせるが、そのことがかえって、絵に緊張感を生み出しているようである。

「舟遊び」同様、人物の輪郭ははっきりしている。それとバランスをとるように、背景はややぞんざいに描かれている。色彩という点では、寒色と暖色を満遍なく組合せ、そのため、やや賑やかな雰囲気を醸し出している。構図が単純なぶん、そうした独特の賑やかさで、画面に変化をつけようとしたのだろう。

モデルは、舞台女優ダーロウ。彼女が被っている赤い帽子は、この絵の最大のポイントとなっているが、それをルノワールも強く意識していた。「私は(この帽子の)赤が呼び鈴のように音色高く鳴り響くものにしてみたい」と語っているが、それはこの赤い帽子がこの絵全体の中心であることを表明した言葉だろう。

そんなルノワールの意気込みが見る者に伝わるのか、これはルノワールの作品の中でもっともポピュラーなものである。

(1881年 カンバスに油彩 100×81㎝ シカゴ美術館)




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