壺齋散人の 美術批評
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うちわを持つ女:ルノワールの世界




19世紀の末に流行したジャポニズム趣味に、ルノワールはあまりかぶれはしなかった。ゴッホやマネなど多くの画家が、作品の中でジャポニズム趣味を発散させているのに対して、ルノワールにはジャポニズムを感じさせるものは、ほんの少ししかない。「うちわを持つ女(Jeune fille au ventilateur)」と題されたこの絵は、その代表的なものだ。

モデルは、当時の人気女優ジャンヌ・サマリー。そのジャンヌに団扇をもたせ、背景には菊の花を配している。どちらも日本を思わせるアイテムだ。ルノワールはこのほか、「読書するモネ夫人」でも、背景にいくつかの団扇を配している。ルノワールのジャポニズム趣味は、これくらいに限られる。

ジャンヌの表情には、どこか幼さを感じさせるものがある。顔の部分は、陰影を曖昧にしてわざと平板に描いているので、その影響かもしれない。唇も色を曖昧にして、幼さを感じさせるように工夫しているようだ。実際のジャンヌは、写真で見ると、女優らしく派手な顔つきをしており、しかもどぎつさを感じさせるほどなので、ルノワールが彼女をこのように幼く描いたことには、なにか特別の理由があるのかもしれない。

なお、うちわの図柄をよく見ると、日本製のうちわにしては、ちょっとありえないと思わされる。ルノワールが見たうちわは、日本製ではなく、模造品だった可能性がある。

(1881年 カンバスに油彩 65×54㎝ クラーク美術館)




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