壺齋散人の 美術批評
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ダンス三部作:ルノワールの世界




ルノワールはイタリア旅行から戻ると、古典主義を意識した大作の制作に取り掛かり、翌1883年の春に完成させた。縦長の画面の三部作で、いずれもダンスのヴァリエーションを描いていた。一つは「ブージヴァルのダンス(La danse a Boujival)」といい、残りの二つは「田舎のダンス(La danse a la campagne)」と「都会のダンス(La danse a la ville)」のペアだった。これらの絵には、イタリアで研究したラファエロの最初の影響が見られる。

上は「ブージヴァルのダンス」。セーヌ河畔の町ブージヴァルのレストランで、ワルツを踊る男女を描いている。男はやぼったい麦わら帽子を被り、女の腰に腕を回している。その表情は帽子の陰に隠れているが、好色そうな雰囲気が伝わって来る。ルノワールのそれまでの作品とは、明らかに異なる印象を与える。人物の輪郭は明瞭だし、色彩に切れがあり、背景は丁寧に描かれている。

絵のモデルは画家を目指し、進んで画家たちのモデルをつとめたシュザンヌ・ヴァランドン。彼女は20世紀の巨匠モーリス・ユトリロの母である。絵が完成した1883年のうちに生んでいる。そんなことから、ルノワールがその父親だという噂が流れたが、ルノワールは否定した。(1883年 カンバスに油彩 181.8×98㎝ ボストン美術館)



これは「田舎のダンス」。田舎がどこをさすのかはわからない。女性の着ているドレスがコットンなので、そのことで田舎を表現しているのかもしれない。女性のモデルはアリーヌ・シャリゴである。(1883年 カンバスに油彩 180.0×90.0㎝ パリ、オルセー美術館)



これは「都会のダンス」。女性の着ているドレスは、光沢のあるタフタで、いかにも都会的な洗練さを感じさせる。この女性のモデルもシュザンヌ・ヴァランドンである。彼女の横顔には、知的な雰囲気が感じられる。実際知性に富んだ女性だったようだ。(1883年 カンバスに油彩 180.0×90.0㎝ パリ、オルセー美術館)

なお、この三部作は、とりあえずデュラン・リュエルの手元に置かれ、ロンドン、ボストン、ベルリンの各地で披露された。




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