壺齋散人の 美術批評
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ほどけた髪の浴女:ルノワールの世界




「ほどけた髪の浴女(Baigneuse aux cheveux dénoués)」と呼ばれるこの絵は、ルノワール晩年の傑作である。ルノワールは、1890年代に画家としての名声がとどろきわたるようになり、それに伴って経済的にも豊かになったので、自由に自分の好きな創作に身を打ち込むことができるようなった。そんなルノワールがもっとも熱心に打ち込んだのが裸婦の表現だった。

ルノワールは、豊満で健康的な女性の裸体を好んだ。この絵のモデルは、そんなルノワールにとって理想的な女性だったに違いない。むっちりと肥った肉体に、豊かに膨らむ胸。頬はバラ色にそまり、健康そのものだ。その女性が、ほどけた髪に手をやりながら、組んだ脚の片方にもう一方の手を添えている。タオルを持っていることから、浴後に濡れた肌を拭いているところなのだろう。

浴女のプロポーションに視線を集中させるように、背景はあっさりと仕上げてあるが、一つだけ目を引くものがある。赤い飾りのついた麦わら帽子だ。この帽子があるおかげで、見る者の視線が自然と流れるような効果を生んでいる。

1890年代に苦しむようになったリューマチのおかげで、晩年のルノワールは、制作に支障を生じるようになり、時には手に筆を括り付けて、カンバスに絵の具を塗ったという。この絵にはしかし、そういう苦心を感じさせない程、自然な勢いが感じられる。

(2006年 カンバスに油彩 92×73㎝ ウィーン、歴史美術博物館)




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