壺齋散人の 美術批評
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浴女たち:ルノワールの遺作




「浴女たち Les baigneuses」と題するこの大作は、ルノワールの遺作となったもので、かれはこの絵を、死の直前まで描いていたという。雄大な自然の中で、豊満な裸体をさらす裸婦のテーマは、最晩年のルノワールが好んだもので、この作品は、そんなルノワールの集大作といってよい。

背景になる木の描き方とか、遠景の裸婦たちの描き方に、粗いところが目立つので、ルノワールのめざしたような完成の域には達していないのだろう。しかし雰囲気的には、完成品といってもよいような充実を感じさせる。

ルノワールは、リューマチのこともあって、晩年は南仏のコレットの丘に建てた別荘でもっぱら制作をした。この作品にも、南仏の明るい雰囲気があふれている。その明るい風景を背景にして、裸婦を描くのは、ルノワールにとっては大いなる悦楽だったに違いない。ルノワールは、ある訪問客に向って、「私の描く風景は付属物に過ぎない。それを人物像といかに溶け合わせるかを模索している」と語ったことがあったが、それはこの絵を話題にしてのことだったのだろうか。

この作品は前景に二人の裸婦を配しているが、モデルは一人である。そのモデルは、当時息子ジャン(後の映画監督)の恋人で、最初の妻となるロシア系のアンドレア・ヘスリンク。一人の女性に複数のモデルをつとめさせるのは、よくあることだ。

(1919年 カンバスに油彩 110×160㎝ パリ、オルセー美術館)




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