壺齋散人の美術批評 |
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手紙に封をする婦人:シャルダンの風俗画 |
シャルダンは、静物画とともに風俗画をも得意とした。「手紙に封をする婦人(Femme occupée à cacheter une lettre)」と題したこの作品は、シャルダンの風俗画の初期の代表作である。1940年のサロンに出展したが、完成したのは1933年のことだという。 構図や光の処理の仕方にフランドル絵画の影響を指摘できる。この絵の場合、光源は画面左上に設定され、そこから注ぐ光が、深い陰影を醸し出している。その陰影の雰囲気は、フランドルのバロック美術に通じるものがあり、同時代のフランスのロココ趣味とは一線を画している。だからといって、シャルダンが古臭いというわけではない。 モチーフは、手紙に蝋で封をする婦人。当時のフランスでは、手紙の封は、のりではなく、蝋でしていたようだ。手紙を書き終えた婦人が、赤い蝋燭をもって、それで封をしようとしている。従僕と思われる男が、大きな蝋燭から種火をとり、それを婦人に渡そうというのだろう。婦人のほうでは、早く渡してもらおうと思って、身構えているさまが見て取れる。 画面手前の犬は、婦人の膝に前脚をもたせかけ、後脚で立ちあがって、眼前の光景を見ている。そうした何気ない眺めに、シャルダン独特の雰囲気を感じることができよう。 (1733年 カンバスに油彩 146×147㎝ ベルリン、国立美術館) |
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