壺齋散人の美術批評
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読書する娘:フラゴナールの人物画




「読書する娘(La Liseuse)」として知られるこの作品は、「霊感」と並んでフラゴナールの肖像画の代表作品。「霊感」の制作動機はわかっているが、こちらは不明。おそらくフラゴナール自身の気晴らしのために描かれたのであろう。モデルはわかっていない。肖像画というより、単に人物画といってよい。

右手に本を持って読書している姿が印象的である。この作品でのフラゴナールの色遣いはロココの典型を示している。柔らかなタッチで、しかもメリハリがある。背景から人物が浮かび上がっているように描くのは、ロココがバロックから受け継いだものだ。

黄色いドレスと、白いフリルが、曖昧な暗黒色を背景から浮かび上がってくるように見える。この黄色がこの絵の生命だと思う。光線の処理もきめ細かい配慮を感じさせる。光源は左手にあり、そこから娘の正面に向かってさしている。その光は、強い影をつくらず、曖昧な明暗に撤しているので、画面全体にやわらかい印象を与える。

X線写真を見ると、少女は当初、観客のほうへ顔を向けた姿で描かれたことがわかる。それだと卑俗に見えたに違いない。

(1772年頃 カンバスに油彩 82×65㎝ ワシントン、ナショナル・ギャラリー)



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