壺齋散人の 美術批評 |
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鏡の前の娼婦:ルオーの世界 |
ルオーは1903年のサロン・ドトーヌ展に出品することで画家としてのキャリアを出発した。その頃から1910年代の半ばごろまでにおけるルオーの主なモチーフは、サーカスとか娼婦といったものだった。これらのモチーフは、ピカソなども手掛けており、またそれ以前から多くの画家が好んで描いたものであって、ルオーに限らず時代の流行と言ってよいものだった。だが、ルオーの描き方には、ある特徴がみられた。それはサーカスの芸人や娼婦たちを、好奇の視線の先にあるものとしてではなく、精神的な存在として描くことであった。その精神性がやがてルオーを、キリスト教的な精神世界の表現に向けさせることになるのである。 上の絵「鏡の前の娼婦」は、この時代におけるルオーの特徴をよくあらわしている。青を基調とし、赤を有効に使うことで、色彩のバランスを図っている。フォルムについては、単純化されたなかにも、動きを感じさせるように配慮している。こうした画面の躍動感は、ロートレックとかスーラといった先輩画家から学び取ったのだろう。 鏡を前にして身づくろいをする女がこの絵のテーマだ。女は裸でいるわけであるから、身づくろいの必要もないと思われるのだが、鏡に映った彼女の顔は真剣そのものだ。娼婦と言ってバカにしないでよ、娼婦にだって美しさへのこだわりはあるのよ、そう言っているように伝わってくる。 背景は、一見ぞんざいに描かれているように見えるが、顔料の混ぜ具合などに、なかなかの周到さを感じさせもする。黒い毛の部分に赤を混ぜたりしてどぎつい印象を和らげているところにも、ルオーなりのこだわりを感じさせられる。 (1906年 紙に水彩・パステル 70×60㎝ パリ、国立近代美術館) |
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