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十字架の道(Via Crucis):ルオーの宗教画





宗教画家としてのルオーは、生涯に夥しい数のキリストの絵を描いた。それらはキリストの顔であったり、また新約聖書に取材したキリストの行いや蒙った迫害をモチーフにしたものだ。この絵「十字架の道(Via Crucis)」は、キリストの受難をテーマにしている。

これは、ゴルゴタの丘で十字架に磔にされたキリストを描いている。キリストは、十字架の上に体を密着させ、両手を頭の上にもち上げている。キリストの磔刑をモチーフにした絵には長い伝統があり、普通は両手と両足を十字架の台にくぎ付けされてぐったりした姿で描かれる。その際に、キリストの十字架の両側に、盗みを働いた罪で一緒に磔にされた二人の十字架が、キリストの両側に描かれ、キリストの足元には大勢の人々が控えている構図が選ばれることが多いが、この絵の場合には、キリストは単独で描かれている。

しかもキリストは、両手を頭のうえにもち上げた姿勢をとっており、くぎ付けにはされていない。また、キリストの腹には槍で刺された跡がみえないので、これはまだ生きているキリストを描いたのだと伝わってくる。その表情が苦痛の色をたたえているのは、キリストが生きていることのあらわれなのだろう。

ルオーは、1939年にキリストの受難をテーマにした版画集「受難」を刊行し、その準備作業として多くの下絵を作った。この絵は、その下絵のひとつをもとに油彩で描いたものである。四周を額縁のような形にしたのは、ルオーの特徴の一つである。

(カンヴァスに油彩 41×32㎝ 東京、出光美術館)





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