壺齋散人の 美術批評 |
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人はたがいに狼である(Homo homini lupus):ルオーの世界 |
絞首台に首をくくられてぶら下がっているこの男は、どんなイメージを喚起するだろうか。まさか、信仰への受難をイメージさせるとは、誰も思わないのではないか。しかし、この絵の作者がルオーだと知らされると、もしかしたら受難を表わしているのではないか、と思わせられないでもない。キリストの受難は、十字架に張り付けられることであったが、現代の信仰者の受難は、首をくくられることであってもおかしくはない。 ルオー本人は、伝えられている限りでは、この絵によって、第二次大戦の惨禍を表現したかったらしい。人が人に対して狼であることは、大戦中の人間同士の殺し合いによって、十分に証明された。ルオーは、その証明の作業を、絞首台に吊るされた男のイメージを通じて提起したようである。 吊るされた男の背景では、炎上する町が描かれている。この炎上する町は、戦争の惨禍を象徴しているように見える。その炎上する町の上には、赤い月が夜空にぶら下がっているが、これは絞首台にぶら下がっている男とあいまって、独特の雰囲気を演出している。 この絵を、暴力を描きながら、実はそれを通じて平和の大切さを訴えているのだとする解釈があるが、それは読みすぎではないか。少なくとも画面からは、平和のメッセージは読み取れない。 (1952年 カンヴァスに油彩 65×46㎝ パリ、国立近代美術館) |
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