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テベリアの湖のキリスト・門(Tiberiade:Au Portique):ルオーの宗教画





「テベリアの湖のキリスト:門(Tiberiade:Au Portique)」も、聖書の福音書に取材している。「テベリアの湖のキリスト」は、ヨハネ伝第21章(付録)のなかで、キリストの三度目の復活についてのエピソードとして、また「門」は同じくヨハネ伝第10章のなかの「羊の門」の話として出てくる。ルオーは、これら全く違う話を一つの画面のなかにイメージ化したわけである。

テベリアの湖とはガリラヤ湖のこと。そこで魚をとっていた弟子たちの前にキリストが現れて、自らの復活について告げ、またペテロの殉教を予言する。羊の門は象徴的に表現した言葉であって、それはイエス自身をあらわすものであり、誰もがその門を通らねば先に行けないのだと諭す。この二つの逸話をなぜルオーがひとつの画面のなかに融合させたか、それはよくわからない。

画面左手に、湖を前にしたキリストと弟子たちが描かれる。背後の湖がテベリア湖なのだろう。福音書には、弟子たちは魚をとっていたと書かれているが、この絵ではその部分は省略されている。また、右側には羊の門と思われる門が描かれ、その前に三人の人が立っている。真ん中の人がキリストなのだろう。

ブルーを基調にしながら、暖色でアクセントをつけ、全体として色彩感が豊かな絵だ。白を利かせているのも、ルオーらしい。一方、フォルムのほうはかなり単純化されている。人物はざっくりとした輪郭線で表現され、顔の表情は省略されている。

(1948年ころ カンヴァスに油彩 39×61㎝ ヴェネツィア、近代美術館)





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